魔法のマネジメント5 of ㈱インサイト経営

株式会社インサイト経営

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第5話 初受注 

 風太のセールスに「それでは検討してみます」と応える担当者の方々。世間を知らない若者は本当に前向きに検討してもらっていると思った。ある日、2度目の訪問先で「先日ご検討いただいた○○の件ですがその後いかがでしょうか?」と切り出すと、「検討するというのは断り文句だよ!君はそんなことも知らないのか!」と言われた。ショックだった。

 初回訪問で担当者との会話がはずんでも、次に訪問した時には、ほとんど忘れられていたりすることも多く、「顧客との人間関係づくり」とは何なのか分からずに悩んだ。それでも、担当者との相性が合い、人間関係を築けたと思える顧客も数件はできた。しかし、実績につながることはほとんどなかった。

 風太の会社では、教育研修やコンサルティングなどの契約を受注と呼んでいたが、風太が初めて受注したのは政府系金融機関における1日の女子社員研修だった。研修を計画している時に、ちょうど良いタイミングで風太がひょっこり顔を出したらしい。競合もなく、すんなりと受注に至った。窓口の人事課長と人間関係ができているわけでもなく、まさに「犬も歩けば棒に当たる」受注だった。

 人間関係ができても実績につながるわけでもない・・・。ニーズを抱えている企業に出会うしかない。そう考えた風太は、いたずらに新規訪問を重ねた。
 とにかく、自分の努力に対する成果が欲しかった。

Doticon_grn_Comment.png解説


 同期のなかで誰が一番に受注するか競ったものだが風太は真ん中ぐらいだった。11月に地方転勤になる風太が東京勤務で訪問した企業は、おそらく3000軒以上あると思う。その中で受注できたのは本編にでてくる1件だけだった。同期社員も皆同じような結果だった。

初受注の時期が遅れている

 先輩社員たちは、風太たちよりも比較的早い時期に初受注していた。売れない時代を象徴し、年々初受注の時期が遅れる傾向にあった。風太の2年くらい後輩には入社後1年間実績ゼロというものも出てきた。

 仕事の内容はともかく、「受注」は営業マンにとってのエネルギー源である。経験を積むことで、自信や実力が蓄積されるものだが、この経験の場がない営業マンが増えている。

偶然の産物(ラッキー受注)を成功事例にしたがる営業幹部

 高度成長期に営業マンとして活躍してきた当時の営業幹部は、「犬も歩けば・・・・」的な受注を営業マンに求め続けた。そんな経緯での受注を成功事例として皆に話し、「新人の○○でもこんな受注がとれた!もっと頑張れ!訪問件数をあげろ!」という叱咤激励をする人も多かった。

 そして、顧客にかわいがられるような営業マンを求めた。「君はよく顔をだしてくれるから・・・」「営業の○○くんは誠意があって・・・・」という理由で受注してくる営業マンを賞賛した。

 優秀な営業マン像は、ニーズを創造するというよりも、ニーズのある会社を見つけ仲良くなることができる人であった。

顧客との人間関係

 体育会出身の風太にとって、顧客にかわいがられるようになるのは比較的容易だった。顧客に迎合し、話していれば「明るい人」「誠意のある人」といわれた。相手の興味のある話題を察し、ただ会話をすればよかった。当時は、顧客と仲良くなることを「人間関係」と考えていた。

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